とても難しい問題で、考古学やDNA解析が進むにつて学説が二転三転していますが、現在の日本型ウルシが中国東北地方の野生原種に由来していることは、ほぼ間違いが無いようです。
→「ウルシの植物分類学的・木材解剖学的再検討と産地同定技術の開発」(科学研究費補助金研究成果報告書 平成21年)をご参照ください。
太古に大陸と陸続きだったことから、日本にも自生していたものを栽培化したか、縄文早期~初期に漆工文化と共に栽培文化も大陸から渡来たのかは議論のあるところです。
→「縄文時代の漆文化と その起源に関する諸問題」(国立歴史民俗博物館研究報告225集 2021年)をご参照ください。
幕末に幕府の函館奉行所が会津産の漆樹を取り寄せ道内各地に移植したのが始まりと言われています。(網走うるしの会ブログより)
網走では、北限の漆として 網走うるしの会様が保全育成に努めておられます。
やはり、東北~北関東、北陸が多いですが、全国各地に散在します。
従来の調査では、栽培区域ではなく天然分布とされていた地域もあるのですが、近年では生育地の状況から栽培種の名残りと見なされています。
上記の表は「縄文時代のウルシとその起源」(国立歴史民俗博物館研究報告 187集 2014年)所収です。
中国のウルシは日本型(Ⅵ)、浙江型(Ⅶ 日本型から派生)、湖北型(Ⅴ)に分かれますが、どれもウルシ科ウルシ属の中でも近縁種です。
韓国のウルシは日本型です。
ハゼノキの一種から取れるウルシです。日本中国型のウルシより硬化に高い温度が必要です。
台湾では、戦前に気候風土の関係から安南ウルシが植えられたと言われています。
ブラックツリーと呼ばれる木の樹液です。チチオールが主成分です。
ビルマウルシ属の植物でレンガス(ボルネオローズウッド)に近い樹種です。
桃山時代に既に大量輸入、使用されていたことが近年明らかになっています。
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「日本国内の出土漆器における輸入漆塗料の使用事例」(桃山文化期における輸入漆の調達と 使用に関する調査(Ⅲ) 保存科学№53)
日本、中国などの漆
台湾・ベトナム産漆
タイやミャンマー産漆
水溶性のゴム質や酵素なども含まれます。下記の成分表を参照ください。
漆の成分(日本産の場合) | ||||
アセトン |
水可溶 |
役割 |
割合 |
|
ウルシオール |
〇 |
× |
主成分。 |
約60~65% |
多糖類 |
× |
〇 |
乳化剤の役割。 |
約5~7% |
含窒素物 |
× |
× |
ウルシオールに溶けている。 |
約2~3% |
酵素 |
× |
〇 |
ウルシオールを酸化させ固める。 |
約0.2% |
水 |
|
|
|
約25~30% |
図1 亀の甲の尻尾
図2 漆は油中水球型エマルションです。
水の中に油が、あるいは油の中に水が分散した状態を「乳化」といい、乳化した液を「エマルション」と呼びます。
油状のウルシオールの中にゴム質水球が分散して乳化しています。
(牛乳やマヨネーズは水中油球型のエマルションです。)
ラッカーゼは銅イオンをふくんだ脱水素酵素です。銅イオンが酸素の運搬役となってウルシオールを酸化します。
酸化還元を繰り返すことで、小さい分子が互いに多数結合して巨大な分子になります。これを高分子化(重合)と言います。
ウルシオール亀の甲の尻尾(図1参照)は酸素を取り込みやすい
↓
ヒドロペルオキシドができる
↓
ウルシオールの骨格と反応して高分子化する
掻きとったままの漆を荒み漆と言います。まだ木皮の屑などが混じった状態です。
ゴミなどを漉したものを生漆と言います。 下地にはこのまま使います。
漆を擂るように混ぜ、成分の分布を均質化する工程です。
塗膜に光沢が出て肉持ちも良くなります(粘度が上がる)。また、方伸びも良くなります。
チョコレートを作る際のテンパリングと似た理屈です。
漆液中の水球粒子を細かく均質にする作業です。
水分を3%程度まで落とす工程です。水分が減って透明化し、またある程度酸化するので黒ずみます。
重合反応が進んで耐久性が増した状態になります。ある程度乾燥速度を調整することも出来ます。
くろめ、なやしのやりかたや添加物(油など)の加え方で様々な漆が出来ますので、目的によって使い分けます。
生漆の段階では、カフェオレのような色で不透明です。
なやし、くろめの工程を経ると透けた褐色になります。
精製後の漆に酸化第一鉄を化学反応させると、漆黒の漆になります。
精製後の漆に顔料を混ぜて作ります。
漆が褐色なので、暖色系は綺麗に出ますが、純白の漆は出来ません。また、寒色系も難しい色味になります。
「漆の本」長瀬喜助著(昭和61年 研成社)
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白木屋漆器店内
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会津塗の工程と主な技法、用具など